教育講演 2

 

多職種連携のために歯科がなすべきこと

 
 

 

吉田 光由
藤田医科大学医学部 歯科・口腔外科 教授

  脳卒中の多職種連携に歯科が必要ですか?と歯科関係者に聞くと、まず間違いなく誤嚥性肺炎予防に口腔ケアが大切だから必要ですと答えられると思います。最近では、歯周病が脳卒中の原因なんてことも言われているので、さらに重要になってくると言われる方もおられると思います。でも、歯科が毎日すべての患者さんの口腔ケアを担当するんですかと聞くと、それは看護や介護職の仕事だと言われます。じゃあ、歯科は多職種連携のなかで何をするんですか?と聞くと、口腔ケアの指導や歯科治療を通じた口腔機能の回復ですと言われます。でも、意識障害で口が開かない患者さんの口腔ケアは誰がやっても難しいですし、高次脳機能障害で歯ブラシが使えない患者さんの指導は作業療法士の方がむしろ上手だったりするので、誰をどのような状態の人を歯科に紹介すればいいのか?他職種の方はわからないんじゃないかと思います。また、口腔機能向上と言ったって、失語の人は歯科治療をしたって話すのが上手になるわけではありませんし、歯もなく義歯もなくても普通食を食べておられる人に義歯がいるのか?また、ミキサー食を食べている人に義歯がいるのか?といったことに明確な答えを持たれている歯科関係者はさほどおられないと思います。

 脳卒中の治療では、全身管理、合併症予防・治療、リハビリテーションが3本柱となり、この目標達成のために必要な職種が多職種連携として求められることになります。単純に言って、全身管理や合併症予防に看護師は絶対に必要だし、リハビリテーションは理学療法士や作業療法士、言語聴覚士が専門なので言わずもがなです。要するに、この全身管理や合併症予防・治療、リハビリテーションに歯科が必要だと他職種が思えば、歯科も多職種連携の一員となるんだと思います。合併症予防としての誤嚥性肺炎予防に口腔ケアが大切なことが科学的に証明され、また臨床において実感されているからこそ歯科も連携の一員だと思っていただけているんだと思います。でも、看護職や介護職の方が自分たちで十分に口腔ケアは頑張っていると思われていれば、歯科は必要ないんだと思います。私たちは歯科がどのように関われば脳卒中患者の再発予防や誤嚥性肺炎予防に貢献できるのかをもっと科学的に証明する必要があります。さらに、私たちの歯科治療が口から食べるためのリハビリテーションや栄養管理にちゃんとつながっていることを他職種に理解してもらい、臨床のなかで実感してもらわないことには、口から食べるための多職種連携の一員にはなれません。自慢じゃありませんが、私が以前常勤として勤務していた回復期病院では、ほぼすべてのスタッフが口から食べるのには義歯が必要ですと患者さんに説明してくれていました。また、義歯を使っていない患者さんには義歯を使っていない、使えていない理由が共有できていました。一方で私が非常勤として勤務している病院では、歯もなく義歯もなく食事している人がそれなりに存在しています。残念ながら私が歯科治療をしていないので、同じように私が説明しても実感にはつながっていないんだと思います。栄養管理のために義歯が必要だと診断したら、その患者さんが本当に義歯を使用できるのか、義歯を装着したらどのような食形態を食べることができるのかを説明して、その通りの結果を他職種に経験させないことには、多職種が実感として歯科が必要だとは感じてはもらえません。
 
 私たち歯科関係者が、全身管理としての栄養管理、合併症予防・治療としての誤嚥性肺炎予防、口から食べるための摂食嚥下リハビリテーションのための診断能力、治療能力をしっかりと身につけていくことが結局多職種連携の第一歩だと思います。多職種連携を経験するのはやはり病院からだと思います。病院で学習、経験したことが地域で生きるんだと思います。院内で医科歯科連携がなければ地域で医科歯科連携をしようとは思わないと思います。病院歯科の先生方にはこの能力をぜひ発揮して、多くの多職種の方と経験を共有していってもらいたいと思っています。


略 歴
吉田 光由(よしだ みつよし)
1991年 広島大学歯学部 卒業
1996年 広島大学歯学部歯科補綴学第一講座 助手 
1998年 博士(歯学)取得
2004年 広島大学大学院医歯薬学総合研究科 講師(学内) 
2008年 広島市総合リハビリテーションセンター 医療科部長
2016年 広島大学大学院医歯薬保健学研究科先端歯科補綴学 准教授
2019年 広島大学大学院医系科学研究科先端歯科補綴学 准教授
2021年 現職
 
役 職
日本老年歯科医学会理事
日本摂食嚥下リハビリテーション学会評議員
日本嚥下障害臨床研究会世話人

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