シンポジウム

 

多職種からみた口腔管理の課題

 
 

 

 
 
 

3. 「多職種で行う口腔管理がもたらす好循環 -歯科衛生士の役割ー」

吉田 泰子
脳神経センター大田記念病院 歯科診療課

  私の勤務する大田記念病院では,毎年1,000名以上の急性期脳卒中患者が入院されている。脳卒中患者は生活習慣に問題のある方が多いため,口腔内においても重度のう蝕や歯周病を抱えていることが多く,脳卒中発症後に意識障害や嚥下障害が出現した場合には,口腔衛生状態はより悪化する傾向にある。さらに,嚥下障害によって口から食事が摂れない状態が続くと,低栄養状態となり,次第に免疫力も低下していく。このような負の連鎖は,やがて誤嚥性肺炎などの感染症を引き起こし,入院期間の延長や予後の悪化に繋がっていく。これはまさに,口腔の問題に起因した悪循環である。
 
 このような悪循環を断ち切るため,当院では2015年に歯科が設立され,脳卒中患者の口腔衛生や栄養の管理に力を入れてきた。設立当初は歯科が単独で口腔管理を行うことが多かったが,2018年以降は,多職種と連携して口腔管理体制の強化に努めている。
 
 その一つとして,看護師による口腔アセスメントと口腔ケアプランの導入である。
口腔アセスメントには,「Oral Health Assessment Tool(OHAT)」を用い,口腔ケアプランを設定する際には,OHATの点数を参考にして実施回数や方法を決定できるようにした。その結果,導入前と比較して,導入後は脳卒中重症度の高い患者に対して早期に歯科介入ができる状況になった。
 
 次に,「口腔ケア・摂食嚥下支援チーム(Oral care and Swallowing Support Team:OSST)」や「栄養サポートチーム(Nutrition Support Team:NST)」への参加である。当院における参加職種は,医師,歯科医師,歯科衛生士,看護師,言語聴覚士,管理栄養士,薬剤師であり,院内ラウンドやカンファレンスといった活動によって,多職種で情報共有を行っている。それにより,摂食嚥下障害を有する患者に対する課題が多面的に抽出され,多職種連携による口腔管理の実施に繋がっている。例を挙げると,看護師がネブライザー吸入による保湿や喀痰吸引を行った後,歯科衛生士が専門的口腔ケアを実施し,良好な口腔衛生状態となった後に言語聴覚士が嚥下評価や訓練を行う。さらに,管理栄養士が栄養や水分を調整して患者の体調を維持し,薬剤師が薬の副作用による影響がないか確認するといった具合である。
 
 多職種連携による口腔管理によって,誤嚥性肺炎を含めた感染症の合併が抑制され,早期に質の高いリハビリテーションが可能となり,脳卒中患者の予後が改善していく。歯科衛生士として,このような好循環を地域で継続できるように働きかけていきたい。

略 歴
2004年
広島県福山歯科衛生士専門学校 卒業
2004年〜2008年
医療法人社団 敬崇会 猪原歯科医院 勤務
2013年〜2015年
医療法人社団 敬崇会 猪原歯科・リハビリテーション科 勤務
2016年
医療法人 緑十字会 笠岡中央病院歯科 勤務  
2017年
社会医療法人 祥和会 脳神経センター大田記念病院歯科診療課 勤務 
現在に至る  

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